ある朝の刺激的なシーン:川内カツシ

いつもの駅のホームに立っていた。12月1日、吐く息は白い。凛とした空気は背筋を伸ばし、前へ前へと歩みを進めてくれそうな程に清々しい。

いつもの時間、いつものエキスプレス、いつもの車両、いつものドアから乗り込んだ。

進行方向に向かって右側の座席、入口に一番近い位置に立つ。窓からは朝陽が暖かで柔らかな日差しを車内に沢山降り注いでいた。

最近会社で購入して貰ったi-phoneでメールをチェックし、必要な返信は手短にinput,sending and transmission completedを繰り返す。 続いてツイッターでフォローしている人のTimelineに一通り目を通す。私自身はこの時点でツイートしたい事は無く、i-phoneのメニューをi-podに切り替えて音楽を聴く。ここ最近のお気に入りはBackstreetBoysのMillenniumというアルバムだ。彼らのハーモニーと歌詞に惹かれた。

鞄から本を一冊取り出す。 猪瀬直樹著:「昭和16年夏の敗戦」はTwitterで氏が継続してTimelineにツイートしていたので気になってAmazonで購入した本で、昨日から読み始めた。耳からはアルバム中私的ランキング第1位の「I need you tonight」が流れている。目には「昭和16年夏の敗戦」第1章、若い官僚が満州から内地へ移動を命じられるシーンが繰り返し、行きつ戻りつ彷徨っていた。そこから先へ進めないのだ。

原因は分かっていた。

車両に乗り込んで暫くしてから感じていたのだ。 進行方向に向かって右側の座席、入口に一番近い位置に立つ私の、左へ二つ隣の座席に腰かけるGentlemanがいた。 そう、そのGentlemanが放つオーラに意識が吸い寄せられてしまい、読書どころでは無かったのだ。歳の頃なら50代半ばだろうか。。。

Gentlemanは手をベルトの前あたりで軽く組み合わせて、静かに目を閉じていた。朝の通勤列車の中にあって、そのGentlemanのところだけ明らかに光と空気が異なるように感じた。

『頭上に極上を』というフレーズに相応しいBorsalinoの中折れ帽が真っ先に目に入った。

ずっと憧れている帽子のブランドで、いつかこの帽子に相応しい大人の男になりたいと思っている。 今はまだこの帽子を頭上に載せるに至っていない。。。

この中折れ帽を少し右斜めに深く被り静かに目を閉じていた。

スーツは落ち着いた色合いの紺にグレーのストライプが織り込まれたダブルのスーツは、上着のボタンがきちんと止められていた。生地の良さと仕立ての丁寧さは素人目にもよく分かった。

シャツはクレリックのピンホールカラータイプのドレスシャツに、幅広の風合いの良い生地と色遣いのネクタイを締めていて、袖口からはダブルカフスを覗かせている。袖口から先に見えたのは柔らかいフェルト素材の黒い手袋で手首部分に皮があしらってあるという徹底した拘り。

パンツはプレスラインが鋭く立ち、くたびれたオヤジが着るスーツのように膝は出ていない。

更に気になる足元に目を落とすと、予想を裏切らない美しいラインをした黒のPlain Toe(プレーントゥー)shoesが見えた。素材の良さが一目瞭然である。

それにしてもこのGentleman、一分の隙もない。 時代が時代ならば私が刀で切りつけようとしても、放たれる気に圧されて身動きが出来ない武士の心持である。 一見物静かで落ち着いた紳士に見えるのだが、私はこのGentlemanから只ならぬオーラを感じ取っていた。

ここは映画の撮影スタジオでもなく、首都東京でもなければ、もちろん古のブリティッシュでもない。故に私の感性にビッシビシと響いてきた。

ある朝の兵庫県川西市、能勢Locallineの1シーンにしてはあまりにも刺激的だったのでブログに書き留めておきたかった。

社業とは何の関係も無い記事に目を通して頂き多謝_。

それにしても気になる。。。企業のオーナーか会長職? 或いは役者?

2010年12月1日
株式会社テクノアート 企画営業部
川内カツシ

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