2018年10月3日~5日まで京都リサーチパークで開催されました【テクニカルコミュニケーション シンポジウム2018】に参加させていただきましたので、所感を書かせていただきます。
2018年のテーマは「TCで織りなす ヒト×モノ×コト~Connected Industriesに向かって~」です。
私が聴講させていただいたプログラムは3日目の『投稿動画全盛の時代、Web動画マニュアルはどのようにヒトとモノをつなぐのか』と『「いかに読んでもらうか」~取り組み事例から考える読みたくなるトリセツ~』の2つです。また会場に展示されていました『マニュアルオブザイヤー2018』の受賞・ノミネート作品も拝見してきましたので、合わせて感想を書かせていただきます。
まずは午前に聴講しました『投稿動画全盛の時代、Web動画マニュアルはどのようにヒトとモノをつなぐのか』について_。
このプログラムは参加者が多く、前日に会場を急遽大きなホールに変更しての発表となりました。
パネリストは、奥本宏幸「のびしろラボ 映像ディレクター」/ 坂田 誠「(株)はちえん。」/ 中原司郎「パナソニックエコソリューションズ クリエイツ(株)」と企画担当者の山垣 充 「(株)第一創版」の4人。
このプログラムの趣旨は、動画投稿サイトで商品の使い方やレビューが多く投稿・視聴される昨今、メーカーは自社サイトや公式情報にどのようにアクセスしてもらうのかを議題にディスカッションが行われました。
このディスカッションでは、大きく2つの視点で話し合われました。
1つは、「(株)はちえん。」坂田 誠さんによる一般ユーザーやYouTuberによる、レビュー動画・取説動画の利便性と合理性
もう1つは、のびしろラボ 映像ディレクター」奥本宏幸さんによるメーカーが公式で打ち出し、プロがつくるマニュアル動画のメリットでした。
坂田さんは、今の時代は一般ユーザーがレビュー動画・取説動画を投稿することが当たり前になり、消費者は同じ目線で商品を組み立て・操作が容易にできるということ。また、操作の難易度や使用用途を細分化して検索することでピンポイントでその商品の動画マニュアルにたどり着けることから、動画投稿サイトでほぼ商品の操作から手入れまで賄える。ということをアンケート結果や実際の投稿動画を踏まえて発表していました。
一方で奥本さんは、メーカーの依頼により自社で製作した整髪用ワックスの動画マニュアルを例に、商品の正しい使い方、メーカーの意向や動画撮影時の照明のライティング・モデルの起用などを徹底することにより、デザイン性と視認性の高い動画マニュアルを発信できるというメリットを発表していました。また、各国の風土や流行に合わせたワックスの動画マニュアルを多数作成することで商品のブランド価値を高める効果があると仰っていました。
これらを踏まえ、一般ユーザーの投稿する取説動画は、予算や人手を掛けずにだれでも投稿できることで、よりわかりやすい取説動画が増えるというメリットがある。一方で、こういったブームはメーカーによる公式マニュアルサイトや公式動画マニュアルの視聴・再生数が伸び悩み、商品の正しい使い方を妨げ、商品のイメージを低下させてしまう懸念があることも事実だということがわかりました。逆にメーカーは消費者の商品購入後のイメージ出来ていない部分がある。そこでメーカーはプロと連携し、そのミゾを埋めるために動画マニュアルをマーケティング戦略の1つとしてより深く捉えて発信することで、わかりやすい動画マニュアルが増えることを期待できると思いました。
午後からは『「いかに読んでもらうか」~取り組み事例から考える読みたくなるトリセツ~』を聴講しました。
パネリストは「樋口史代 パナソニック(株)」/「池田和夫 三菱電機(株)」/「上月真由美 パナソニック(株)」/「町田 隆 (一財)家電製品協会」の4人。
このプログラムは、世界的に見ても取説を読んでいない、見ていない日本において商品の機能や商品を安全に使用してもらうために各メーカーが取り組んできた事例をもとに、パネリストのそれぞれの立場から「読みたくなるトリセツ」について議論がなされました。
このディスカッションでは、初めに「(一財)家電製品協会」町田 隆さんの発表で家電製品協会の活動内容と成り立ちについて紹介されました。
【家電製品協会】とは
家電製品の製品の安全性向上、アフターサービスの充実、少資材対策など、家電製品に関する調査・研究、政策立案などを行う一般財団法人。(参照元:コトバンク)
とあるように、家電製品を消費者とメーカー両方の目線で安全確保のガイドラインの指針を決める、いわば『取説の調査機関』です。
そして町田さんは、『日本ではなぜ取説を読まない、読んでもらえないのか』という理由を家電に対する製品理解と安全意識の観点からいくつかの調査結果をもとに仰っていました。
以下、内容抜粋
『家電製品の使用実態と消費者の意識調査』
全国在住20歳以上の男女を対象にインターネット調査を行い3,444人の回答結果
→家電(新品)購入者の取扱説明書の現在保有率は、家電製品47品目中で全体の約7割。
『東京都の平成26年 電子レンジに関する調査』
10歳代から70歳代の全1,012人の回答
→「電子レンジの取扱説明書と本体の注意表示を確認したことがる」の回答結果は10歳代が2割で40歳代以降は6割を超えていた。
『家電製品は安全に使えることが当たり前?』5カ国(日、米、英、豪、中)20歳以上の男女2,838人の回答結果
→「非常にそう思う」という回答が(日42%、米28%、英34%、豪28%、中47%)
『取扱説明書や本体の警告や指示通りではないが、禁止されていない使い方をした場合の製品事故の責任』
→企業に責任(日18%、米9%、英7%、豪7%、中10%)
自己に責任(日5%、米24%、英29%、豪29%、中2%)
以上の結果から
日本は、消費者が製品の安全性を考慮して使用する意識が低い。
また、製品は安全であることが当たり前との意識が強く、取説や注意事項はあまり読まれていないことがわかりました。
そして「三菱電機(株)」池田さん、「パナソニック(株)」上月さんによる、浴室乾燥機と炊飯器の取説を例に『読んでもらえるか』という点でこだわった点の発表に移りました。
池田さんは、自社製浴室乾燥機の取説のこだわりを、各操作の工程で説明ページにQRコードを配置し、操作方法の動画マニュアルと取説を連動させたことと仰ってました。さらに、大きな文字と効果的なイラストを使用し、子供から高齢者まで理解してもらえるようにしたということでした。
一方、上月さんは、自社製炊飯器の取説のこだわりを、料理雑誌を見本に、実際に製品を使用した美味しそうな料理の写真を使用例と機能説明にレイアウトしたことと仰ってました。そして写真は各ページに1枚を大きく使用し、とにかく見てもらえる、手に取ってもらえることを重要視したことで、そこから各機能説明や使用用途に誘導させることに成功したそうです。
このことから、従来の形式張った取説では、なかなか読んでもらえないのが現状で、
午前のプログラムで出たような動画マニュアルを効果的に取説に盛り込んだり、雑誌のようなレイアウトを取り入れたりと、時代や世代に柔軟に対応した構成が必要。それをきっかけに見てもらう、読んでもらうことで製品をより理解し、さらには注意事項や製品の安全性を意識してもらことに繋がるのだと感じました。
『マニュアルオブザイヤー2018』の受賞・ノミネート作品を拝見して
受賞部門は【一般部門】【業務部門】【産業部門】の3つで応募総数44点。今年はコンテストとして初めて優秀賞が1つも選ばれなかった年だったそうです。
展示ブースではウォシュレットから検査機器まであらゆる取説が展示されていました。取説の横には審査員の評価が書かれたパネルがあり、どういった機器かよくわからないモノでもレイアウトや表記に対しての審査員の評価が書かれていました。着眼点や評価基準はいずれも詳細で鋭く、勉強になりました。
その中でも、これもどういった機器なのかはよくわかりませんがメモリハイコーダという機器の取説の内容の一部が個人的に印象に残りました。それは基本操作のページで操作がタッチパネルの製品で、スマホによくあるタップやピンチインなどタッチパネルの基本的な操作名称と指の動きがイラスト付きで記載されていた部分でした。タッチパネル機器の操作は指の操作自体に名称があるため、こういった基本操作の説明が簡単に紹介されている点は説明文を読み使用する上で非常に有効だと思いました。
その他の展示作品でも、各製品で子どもや高齢者などユーザーに特化した取説の工夫が製作者の意図を汲み取って拝見することができて非常に有意義な体験となりました。
今回のシンポジウムに参加させていただいたことで、取説を通して各企業のこだわりやマニュアル業界の現状を垣間見るいい機会となりました。
2018年10月22日
第2制作部
テクニカルイラストレーター
グチケン@山口健人